レジを選択するということ(後編)

レジ選択実践編である。

 

 

 

競技の前に、レジに向かって一礼する。

 

レジ選択手たるもの、礼儀を忘れてはならない。

 

 

 

今回オープンしているレジは4つ。しまっているレジは1つである。

 

ざっとすべてのレジを見る。

 

一番右の列は研修中の新人がレジを担当している。

 

一番左のレジだけ妙に人が少ない。

 

すぐにそのレジに近づいていく。

 

担当者はおばちゃんだ。

 

 

 

 

 

顔を下げている!!!

 

 

 

 

 

千手観音だ。

 

 

 

 

この勝負、もらった。

 

応援席から「ナイス、チョイス!」というお決まりの文句が飛んでくるのは間違いない。

 

ちなみに強豪校になればなるほど、「ナイス、チョイス」の発音をくもらせて 

「ナイッチョース」と言う。

 

 

 

話がそれた。

 

それどころではない。

 

 

 

私は千手観音のレジへ駆けていく。 

 

ようやくレジの全貌が見えてきたころ、ふと下に目を落とすと、レジのカウンターの上に買い物かごが逆さまに置いてある。

 

 

 

 

レジがクローズしたのだ。

 

 

 

 

千手観音はレジさばきが速いだけでなく、レジクローズも速い。

 

完全に出遅れてしまった。

 

 

 

 

今オープンしているレジは3つ。

 

研修の人が担当しているレジだけ若干空いている。

 

あとの2つのレジの列の長さは同じくらいである。

 

新人の人のレジ以外で会計することを決めた。

 

2つのレジに並んでいる人物を確認する。

 

どちらにもサラリーマンがひとりずつ並んでいる。

 

片方の列にはカートを押しているファミリーがいる。

 

カートに買い物かごが2つ乗っている。

 

ファミリーが並んでいない列に決めた。

 

 

 

 

読みは大当たりだった。

 

並んだ列がすいすい進んでいく。

 

レジ選択成功である。

 

 

 

 

油断したその時、

 

隣のレジが突如オープンした。

 

 

 

「次でお並びの方こちらへどうぞ」

 

 

 

一瞬の迷いが生まれた。

 

 

 

 

今並んでいるレジにそのまま並んでいてもすぐに会計できるのだが、欲が出た。

 

 

 

私はオープンした隣のレジへ行こうと列を少し抜けてしまった。

 

 

 

オープンしたレジへ足を踏み入れると、そこへ血眼になった他のレジ選択手が一気に駆け込んできた。

 

 

 

私は強豪校にフィジカルで負けてしまった。

 

 

 

レジ横のガムやメントスが並ぶ棚に激しく打ち付けられる。

 

 

 

強豪校のベンチから歓声がわく。

 

 

 

 

 

新しくオープンしたレジ列に入ることもできず、元のレジ列に戻ることはできない。

 

 

 

立ち上がることもできない。

 

 

 

 

史上初のリタイアとなってしまった。

 

 

 

 

 

私は、買い物かごから商品をすべて取り出すと、かごを逆さまにして自分の前に置いた。